出版への道

      2016/08/07

Pirates Booksのホームページにて

【出版への道】をアップしました。

下記にも同じ文を掲載しておきますので

ご高覧ください^^

 

出版への道

製版会社で15年ほど進行管理をやって働いているうちに、

門前の小僧何とやらで、一冊の本を作るために
必要なデータの作り方をだいたい憶えてしまった。

もともと唐沢商会の『脳天気教養図鑑』の影響で
神保町や早稲田の古本屋めぐりが何よりも好きだった。
写研の書体はDTPでは使えず、昔の本のハッとするほど
美しい組みはMacではできなそうだが、
エディション・イレーヌのように独自の選定眼と編集で
少部数限定の美本を造っている人たちもいる。
ああいうものを、いずれ自分でも造ってみたい。
出版事業者として本を出して書店に流通させるための
ノウハウは2ちゃんねるで全部知った。
そのスレッドを10年保存していた。いつか使ってやろうと思っていた。

勤めていた会社が倒産し暇になったので、
とりあえずISBNコードを取得して、それっぽいドメインを取った。
形ばかりのWebサイトを作って工事中の札を掲げておき、
なんとなく個人で出版関係っぽいことを
やっているということにして次の仕事を探し始めた。

そしたらなぜか次の仕事があっという間に見つかってしまった。
似たような業界だ。また忙しく働き始めた。
せっかく取得したISBNコードも全く使わないまま
日々は過ぎていった。サイトは放置していた。2年経った。

「私、実は作家志望で。短編集を書いたんで、出版したいんですよ。」

職場で知り合った黒澤優子はそう言った。

「これは、そんなに売れる内容じゃないけど。
私はそのうち有名になってベストセラーをバンバン出すから、
そこからさかのぼって売れるんですよ。」

と彼女はこともなげに言った。
大口を叩いているふうでも妄想に取り憑かれているふうでもなかった。

そこで「実は俺、出版事業者としての資格みたいなものを持ってるんだよね〜」と明かして、
彼女が書いた原稿を読ませてもらうことになった。

送られてきた原稿は長大なものだった。

大急ぎで目を通し、次のような返事を出した。

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黒澤さま

お疲れ様です。大急ぎで読ませて貰ってます。
あれだけ言うからには書けるんだろうと思っていたので
全然驚かなかったけどそれでも予想の斜め上を行ってるところもありました。

(中略)

まだ全部読めてないけど僕の好みを言っていいですか。
トウモロコシとサファリとベルゼブブが好きです。
あと記念写真も好きです。
豚のうっちゃりブラックユーモアも好きです。
ザクロも意外と好きです。
作風の幅の広さとナルシシズムの皆無と
どれも安定していて危なげがまったくないところが凄いですね。

美しい本を造って世に出すのは夢だったので幸せです。

下北のヴィレヴァンでサイン会やろう!
ロフトプラスワンで著者朗読会やろう!

(後略)
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これに対して、彼女からは大変喜んでいる旨の返事が来た。
それまでは誰に読ませてもいたずらに嫉妬されるばかりで、
ちゃんと評価されたのは初めてだったそうだ。

しかし、これだけのものを商業的に成功するように出版するとなると、
個人としての自分の手に余る。資金調達力と宣伝力のある企業の力を借りたい。

これと前後して、仕事で知り合った長谷川から、
彼のやっている会社に入らないかとの誘いを受け、
ほぼ二つ返事で快諾していたので、
会社の最初のミーティングにこの出版ネタを持っていった。

長谷川は起業家として、様々なコンテンツ発信を
やっていきたいと考えていて、電子書籍などにも興味があるふうで、
こういう出版事業ならまさにうってつけだということで、意気投合した。

そこで原稿を読了して組版作業を終えたあと、黒澤優子に次のようなメールを送った。

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黒澤さま

お疲れ様です。一応、状況報告です。

ひととおり読ませて貰って組み終わりました。
誤字も少ないし疑問もほとんどないです。

280頁ほどになりました。ハードカバー上製本で
1000部ぐらいは刷りたいですね。

いい本になると思うので大々的にやりたいのですが、
そうすると僕個人だけでやるには手に余るので、
今日、イベント企画やアイドルプロデュースなどの
コンテンツ発信をやっていて今後出版事業も
やりたいというベンチャー企業の方に打診してみました。
(実は黒澤さんもよくご存じの方です。)

そしたら是非うちで出版したいという返事で、
そのプロジェクトは僕が中に入って
責任をもって進めますので、そのようにしていいですか?

(後略)
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「黒澤さんもよくご存じの方」の心当たりが
なかったのか不安そうな返信が来た。
そこで別の仕事でよく一緒にやっている長谷川だということを明かして
安心して貰い、ここから三人四脚での書籍出版への道がスタートして今に至る。

Kanagawa拝。

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