2ちゃんねるについて

      2016/08/07

必要があって、野村進『調べる技術・書く技術』(講談社現代新書)を読み返している。

これは、良著だ。プロのライターが自分の仕事の秘術を惜しみなく語っている。テーマの選定にはじまり、資料の収集・整理法から取材・インタビューのやり方までをコンパクトな新書一冊に網羅している。

しかし圧巻はなんといっても「事件を書く」と題された第七章のルポルタージュである。実例として、かつて著者が雑誌に発表した文章をそのまま掲載して解説を加えたものだ。

1992年の大みそか、茨城県新治郡玉里村(当時)の女子中学生5人が集団飛び降り自殺を図り、そのうちの3人が死亡した。

このニュースは全国に衝撃を与えた。テレビのワイドショーは精神科医や心理学者のコメントを付して事件を報道した。しかしそれだけでは、一体なぜこんなことが起こってしまったのか、何も解明していないにひとしい。

当時、べつの取材にとりかかっていた著者は急遽予定を変更して茨城県へ飛び、かぎられた取材期間の中、関係者と逢って話を聞き、土地の歴史や住民気質にも目を配り、事件に至るまでの少女たちの近況を克明に調べ上げた。それらのほとんどは当時どのメディアでも報道されていないものだった。誰の目にも不可解と思われた猟奇的事件にも、背景を徹底的に調べて提示することでおのずと浮かび上がるものがあった。

5人の少女が、何月何日、何時頃どこにいて、どのような経緯で八階建てマンションの踊り場から一斉に飛び降りるに至ったのか、一読してわかるように再構成されている。アシスタント一人を除いてほぼ独力で取材をこなし、わずか半月あまりでここまでのことを調べ上げた著者の仕事は人間ワザとは思えない。

先日、佐世保の高一女子が同級生を殺害したというショッキングな事件があったので、何年ぶりかで2ちゃんねるにアクセスしてみたら、昔とちっとも変わっていず、まさにこのような感じで加害者とその家族の個人情報が克明に晒されていた。

【佐世保】高一女子殺害切断事件★37【猟奇】

実名と顔写真はもちろん、自宅の住所とGoogleストリートビューによるその画像、国体やピアノコンクールの入賞歴、学歴や職場などなど、どこからこんなことを調べたのか不思議に思えるような情報がこれでもかといわんばかりだ。

プロのジャーナリストであれば取材対象が未成年であれば当然、匿名化するなど最大限の配慮をする。しかし無責任なネット民にはそういうところもない。両者の差は決して小さくないのだが、どちらも既存メディアの手の届かないところへ切り込んで真実を摑み出そうとしている。2ちゃんねるの書き込みの猛烈な下品さに過剰な拒否反応を示すことなく、その上澄みだけを摂取し、一定の高評価を与えてもいいのではないか。

kanagawa拝

 - コラム_kanagawa