TBS【日曜劇場】から昇華した映画『七つの会議』を見届ける(若干ネタバレあり)。
2019/02/17
映画『七つの会議』を見てきました。
TBSの日曜21時からのドラマ枠【日曜劇場】 の流れを汲んだ
池井戸潤氏 原作のオールスターキャスト作品。
近年、『半沢直樹』『小さな巨人』『下町ロケット』と
【日曜劇場】の王道感ある作りのドラマにハマっております。
中でも、国宝級ともいえる香川照之氏の怪演は
フィルムに焼き付けておくべきだと個人的に思っていたので
TBS・東宝さんの所業に拍手喝采でした。
様々なジャンルから銀幕に結集した
出演者達による重厚な演技バトル、
古舘伊知郎風に言えば正に
日本芸能史に刻まれる異種格闘技戦であります。
(※以下、人名は敬称略)
野村萬斎〈狂言〉
次々に繰り出される異形の台詞回し、変幻自在の声色。
掴みどころのない仕手に見ている観客側も翻弄される。
癖のある登場人物が多い群像劇だと主役は”受け”の演技に回り
ニュートラルな人物像になることが常套なのだが、
『七つの会議』に関しては自由すぎる萬斎ワールド炸裂で
いびつとも言える危ういバランスの上に成立している。
香川照之〈俳優・歌舞伎〉
冒頭の訓示を垂れる会議のシーンだけで一見の価値がある。
目配せする演技で眼球が異常な速さで左右に動いていたが
精緻な身体のコントロールに関しては畏怖すら覚える。
野村萬斎とは“矛と盾”ならぬ“矛と矛”状態ながら、
ドラマ途中からはやや抑制した演技で
主演にポジションを譲る配慮を見せた。
及川光博〈歌手〉
軽妙洒脱な”王子”は影を潜め、嘔吐まで披露する
脆弱っぷりを醸し出していたが、
話が進むごとに存在感を発揮。
ドラマ『相棒』よろしく、朝倉あきとのコンビで話を推し進めていく。
ミッチーはバディものがフィットするということであろう。
朝倉あき〈女優〉
退社に追い込まれながらも、
ドーナツに活路を見出すOLを好演。
濃いキャスト陣の中に埋もれ
地味な雰囲気だった様相も変化して、輝きを見せ始める。
この作品は朝倉あきの“成長物語”であるともいえるだろう。
東宝芸能でキャリアをスタート、活動休止を経て現在は別事務所に所属して
東宝配給の映画に出演、とその歩みにストーリーを感じずにはいられない。
鹿賀丈史〈ミュージカル・俳優〉
昔からテレビドラマ『私鉄沿線97分署』『翔ぶが如く』の
出演作を見ていて、善人の主役なのに
何処と無く暗さを潜めた雰囲気を感じ取っていた。
”反省しない悪人役”は
底のしれない黒さをみせる(※あくまで役の上で)
鹿賀さんにうってつけであった。
藤森慎吾〈芸人〉
野村萬斎演じる八角との対決に起用された
“クズっぷり”全開の役どころで、土下座を披露。
キー高めの声がマイクに乗りやすくよく通ることもあり
軽いキャラながらも強い印象を与えた。
北大路欣也〈時代劇〉
広大な会議室の威圧にも見劣りしない堂々たる出で立ち、
北大路御大が登場すると画格が上がる。
八角たちの味方なのか敵なのか読み取れない挙動で周囲を煙に巻く。
本心を見せない人が一番怖いのである。
世良公則〈歌手〉
最初に出てきた時は誰か分からなかったほどの
キャラ変を遂げていた”あんたのバラード”。
ハードパンチャー揃いの演技格闘戦の最中、主張を抑えることで
その真摯な姿勢がむしろ浮かび上がっていた。
片岡愛之助〈歌舞伎〉
『半沢直樹』でのオネェキャラで
お茶の間にて一気にブレイク。
”ラブリン” こと愛之助、睨みのきく目線といい
口角の締まったへの字口といい、生粋の歌舞伎役者顔である。
立川談春〈落語〉
『下町ロケット』で佃社長を支える”トノさん”とは正反対の
小悪党のベンチャー企業社長役に配される。
見た目は同じでも中身が真逆のギャップが楽しめるのは
落語家のそれである。
橋爪功〈舞台〉
飄々とした好々爺を演じる印象が強い橋爪さんだが
今作では隠蔽工作に走る子会社社長を演じる。
どんな役においても ”こういう人、本当にいそう”という
リアリティを醸成する自然な立ち振舞いである。
岡田浩暉〈歌手〉
爽やかな容姿でマイクを握っていた
トゥビコン(To Be Continued)は今は昔。
廃人のような形相で短い出演時間ながらも
爪痕を残す。
『七つの会議』は、『半沢直樹』『下町ロケット』のような勧善懲悪モノで
敵を倒してすっきり爽快という作品では決して無いです。
カタルシスを求めると肩透かしを食らうモヤモヤ感がある。
主人公である八角(野村萬歳)と北川(香川照之)が戦うのは外敵でなく
内なる自分であり、描写されているのは会社組織の中で20年もの間
雌伏の時を過ごした人物たちの葛藤です。
こういった題材をTBSの制作陣が選定したことに意義を感じる訳であります。
次は『半沢直樹』が観たいなぁ。
T.HASE拝。