俺の作詞道 ~其の十二『MIND CIRCUS(歌:中谷美紀)』作詞:売野 雅勇~美貌のパズルが解けました

      2017/01/06

 

80〜90年代のポップスを知る上でこの上ない一冊。

坂本龍一教授のキャリアが乗りに乗っていた時代、

作詞家としてその一翼を担われた売野雅勇さん。

お二人のタッグ作品の中では

教授のボーカル曲『美貌の青空』

歌詞も非常に好きなのですが

中谷美紀『MIND CIRCUS』について。

 

著作の中で、最初の一行が書けず

ホテルで缶詰になる様子が描かれておりますが、

さぞかしの苦行だったかと推測されます。

サビ頭の

君の誇りを汚すものから きみを守っていたい

一行目が書けると以降の歌詞も

スルスルと一気に引き寄せられたとのこと。

確かに力強いフレーズで、いいんですよね。

この言い回しに中谷美紀プロデュースワーク

世界観がギュッと凝縮されている。

 

歌詞の内容については、

ムードが全編に渡って描かれており

様々なピンナップを断片的に並べて

なんとなくひとつの空気感を形成しているような

体裁になっております。

を踏んだり、オチのあるストーリー仕立て、

といったスキルフルな作詞法でなく、

メタファー(隠喩)を駆使した

散文的な言葉が綴られております。

なんとなくハイソな異国情緒感が醸成されている。

 

情感のみに委ねて書かれた作品で

意味を追わずにあくまで雰囲気を愛でるもの

以前は思っていたのですが、

よくよく読み込むと

ある一定の秩序に基づいた

言葉の並べ方になっていると気づきました。

(売野さんが意図されたものであるかは定かでなくあくまで推測です)

汚すものから ⇔ 守る

偽り ⇔ 愛

傷口 ⇔ ナイフ

避暑地(大人)⇔ 夏休み(子ども)

悲しい世界 ⇔ 街角で微笑って

 

近い箇所

相反する意味の言葉を連続で並列させて

詩が構成されているのです。

 

エンターテイメントの基本である

対比をうまく使って、リズムを出している。

簡単に言うと桜木花道と流川楓の組み合わせみたいなものです。

 

難解でアーティステックな匂いを全編に漂わせながらも

どこか手に届くところにあるもののように

モヤモヤと感じていた、その理由がようやく溶けました。

ポップスとして成立させるべく

そっと分かりやすい手引きとなるものを

忍ばされていたこと、

少し大人になった今時分になり

気づいたのであります。

 

あくまで妄想ではありますが

アレコレと思考する余白を与えてくれる

売野さんの創られた詞に改めて感銘を受けました。

 

T.HASE拝。

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